研究発表抄録

一般演題     シンポジウム     特別講演     ランチョンセミナー     JART4学会     研究会等


001 シンポジウム     「放射線医療技術の最前線」〜いかに技術力をいかすか〜
  放射線技術の最前線ーいかに技術力を生かすかー
座長 橋田 昌弘 熊本大学医学部附属病院 医療技術部
【概要】このシンポジウムのタイトルにある「最前線」は、直感的に「最先端」をイメージし、「最新の装置」を思い浮かべる方が多いと思います。確かに「最新の装置」ではいろいろなことができ、将来の放射線診療の方向性を作り出す可能性を秘めています。しかし、最新の装置が販売されても取り扱える人はほんの一部に過ぎず、多くの人は現在の装置が更新されるまで最新の装置を手にすることができないのが現状です。また、最新の装置は、開発段階でユーザーのneedsは採り入れられているものの、装置メーカーが開発したものであり、我々ユーザーが直接関与したものではありません。ある意味、最新の装置で最新の技術や検査結果が出るのは当然であり、そこには我々ユーザーの技術力は全く不要かもしれません。
 一方、技術者としての最前線とは、現在、使用できるハードとソフトを100%あるいは120%使い、最大限の力を発揮する事だと思います。そして、この事は、目の前の患者様に対する医療技術者の責務でもあります。最前線に立つためには何をするか?まずは、現状を知る、つまり基礎的データからハードとソフトの可能性と限界を知る事と思います。つまり、トライアンドエラーで研究を行うことになります。その研究の中で創意工夫によりアイデアや新しい視点が生まれ、その装置での最前線が生まれ技術力が活かされることになります。我々の持つことができる「技術力」は、使用している装置の性能に左右されることも事実です。しかし、この技術力はベースになるものであり絶対的なものではないと信じています。今あるもの(装置)でも、どうにかできると考え諦めないことが、技術力を生かすことに結びつくと思います。
 本シンポジウムでは、上記の考えの基に、敢えて最新の装置の話題を入れない構成とし、シンポジストに最新の装置がない施設の方を選びました。しかし、前述した創意工夫を日頃より実践し優れた研究成果を出している方を「放射線治療」「MR」「核医学」「CT」の各分野から選んでいます。皆様のシンポジウムへの積極的な参加により、“最前線とは?”“技術力を生かすとは?”の答えを一緒に考えることができれば幸いです。
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002 シンポジウム     「放射線医療技術の最前線」〜いかに技術力をいかすか〜
  放射線治療分野における技術力とは?
尻枝 勝敏 社団法人八日会 藤元早鈴病院 放射線治療部
【概要】技師免許取得後にはじめて読んだ某専門雑誌に、「診療放射線技師は教科書や文献に記載されている数値をそのまま信じ、実証・検証をしない・・・」という類のコメントが掲載され、それにショックを受けたことが記憶に残っています。さまざまな患者さまやモダリティと面向き合う職業、ボタンひとつ押すだけで大量の画像や数値とともに、多くの患者さまが目の前を流れていき、気がつけば自ら提示したデータについて何の疑問も感じずに、日常が臨床業務で終了ということが多いような感じもします。特に昨今の高精度・高性能放射線関連機器をみると、臨床の現場にいる私たち診療放射線技師の大半にとって、詳細はブラックボックスであることが多く、日常業務と並行しながらその理論を実験で確認し臨床に有用なデータを施設値として呈示していくことは、現実では時間的、マンパワー面でも大変厳しい状況です。そのため、製品受入れ時点であきらかな異常がない限り、えられたデータは確かに「良い」ものと信じて疑いないような感じがあり、それで満足してしまう傾向にあります。
 放射線治療分野では、医用直線加速器を例に取り上げても、マルチリーフ・コリメータ(MLC)や照射位置照合システムのひとつであるポータルイメージング装置(EPID)装備から、最先端ではコーンビームCT装着の画像誘導式放射線治療装置(IGRT)までスペックは多様化しています。それらスペックをもつことが体幹部定位放射線治療を実施できる条件のひとつになりますが、IGRTはおろかMLC、EPIDも利用できない施設は機器更新しなければ、最良の治療をすることができないのでしょうか?マージン設定に関する考察からみると、必ずしも最先端機器=最良の治療が可能ではないような感じもします。前立腺癌のマージン設定については、日本放射線腫瘍学会などのガイドラインがありますが、それは担当する診療放射線技師のセットアップ精度と再現性がある一定レベルで担保されていることが前提です。マージン設定は、投与線量および膀胱直腸粘膜障害発生頻度に影響します。セットアップ精度の現状把握、再現性維持とさらなる精度向上により、マージン最適化してフィードバックさせることは、診療放射線技師の責務だと考えます。南九州地域における最前線の民間放射線治療施設のひとつである、当院での前立腺癌3D-CRT品質管理の取り組みを紹介し、「臨床に直結する研究」のための「技術力」とは何か、本シンポジウムにおいて、討論し指導いただきながら、その解答のヒントを得られればよいと考えます。
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003 シンポジウム     「放射線医療技術の最前線」〜いかに技術力をいかすか〜
  MRI検査において、いかに技術力を生かすか
緒方 隆昭 天草地域医療センター放射線部
【目的】現在、MRI分野における最先端と言えば、3.0T装置における研究であることは周知の事実である。しかし装置が高額である点と現在まだ途上の時期であり臨床的適応範囲が狭い点、高磁場であるが故の制約の点で未だ最前線は普及している1.5T装置と言える。今回は、普及している1.5T装置ユーザとして、中核病院で行っている技術力の生かし方について、どこの施設でも行える身近な検討を紹介する。
【方法】
1:装置更新時のシーケンスの最適化として、頭部領域の例を紹介する。
2:腹部領域の拡散強調画像の最適化について紹介する。
3:BLADEの画像特性についての検討を紹介する。
【結語】MRIは、他のモダリティと異なり各装置メーカーにおいて、画像の仕立て(画質)や得意とする分野、操作性の違いにより各装置に個性が見られるのが特徴である。このような状況の中で最大限技術力を発揮するために放射線技師は、まず機種選定時において、自分の施設の診療科や画像診断の特色、将来展望を鑑みて施設に適した装置の選択が必要である。その上で装置メーカーの提供する最新技術を臨床に生かすためにメーカー推奨シーケンスの1つ1つを自分らの知識や価値観にて検討し、自分の施設オリジナルにして行く事でメーカーの技術力と現場の技師の技術力が融合したと言える。これは、最新の撮像法のみならず基本的な検討である場合もあり、ハードウエアが古くなったとしても、肝特異性造影剤の様な新しい造影剤の撮像手技や最適シーケンスの検討など検討材料は多岐にわたる。
 このような技術力向上の評価の場として研究会、学会参加は効果的であると考える。学会発表は、論文や学会発表が先に有りきではなく、日常診療上問題となり検討した結果をまとめ上げて、各研究会や学会に演題発表を行う。最大の成果は、演題発表を行った実績よりもむしろ演題発表の準備のプロセスで、基本的な理論の習得が成され、発表時において会場からの質問や座長からの意見によって検討内容の客観性、着目点や取り組みの正当性などが評価され、追加検討事項や課題が見えてくる。それを現場に持ち帰り検討することで更に技術力向上に繋がると考え、必ず現場に還元している。また現在の検査内容や画質に満足することなく問題点に気付くための刺激を与えて貰うのも研究会、学会の場である。このような技術力向上は、最終的には日常診療(患者様)に還元することが最大の目的であり、装置が古くなり検討材料(装置メーカーの技術力)が少なくなっても技師の技術力において補い、日々継続していく様に努力すべきであると考える。
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004 シンポジウム     「放射線医療技術の最前線」〜いかに技術力をいかすか〜
  甲状腺専門病院における核医学技術力の生かし方
村上 智紀(むらかみ とものり) 医療法人 野口記念会 野口病院 放射線科
【概要】当院は甲状腺・副甲状腺の専門病院である。そのため、核医学分野での一般的な「最前線」からは若干離れてしまうだろう。専門病院かつ小さな個人病院において、どのように技術力を生かそうとしているか紹介させて頂きたいと思う。
 甲状腺の核医学検査で第一に挙げられるものは、甲状腺ヨウ素摂取率測定と甲状腺シンチグラフィであろう。当院では、これらの検査は予約制をとっておらず、いつでも検査が行える体制をとっている。そのため、本検査においてはI-123が広く用いられているが、当院ではやむを得ずI-131を用いている。摂取率測定には甲状腺摂取率測定装置を用いている。
 当院では、2007年に甲状腺摂取率装置を更新した。その際に、新規導入装置(以下、新カウンタ)の感度特性の評価を行い、従来から使用していた装置(以下、旧カウンタ)との比較を行った。その結果、新カウンタと旧カウンタの相違が明らかとなっただけでなく、新カウンタについては適正な測定距離と視野があることがわかった。単なるカウンタと軽視されがちな摂取率測定装置であっても、性能を十分に把握した上で適正に使用しなければ、精度の高い検査結果は得られない。これについては、現在も引き続き検討中である。
 次に、甲状腺分化癌の核医学検査として、当院ではTl-201シンチグラフィを施行している。Tl-201イメージング検査におけるエネルギーウィンドウ設定は、71 keV±10%(on-peak window、以下ON-pw)が一般的に用いられている。一方、77 keV±14.3%(off-peak window、以下OFF-pw)に設定することによって、直接線を増加させ、かつ散乱線含有割合を減少させることができ、より効果的なTl-201イメージングが可能となることが報告されている。
 ON-pw画像とOFF-pw画像を臨床画像で比較検討するために、これらの同時収集法を考案し報告した。本大会においても、同時収集法を用いた臨床画像の比較検討について報告している。最新装置を用いずとも、このような方法による画質改善やその検証を行うことができる。
 核医学装置はコンピュータの操作さえ間違わなければ、何かしらの結果を出してくる。しかし、診療放射線技師の本質的理解がなければ、その性能を引き出せないどころか、誤った結果を出してしまう恐れもある。核医学において技術力を生かせるか否かは、装置よりも人間の寄与の方が大きいのではないだろうか。
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005 シンポジウム     「放射線医療技術の最前線」〜いかに技術力をいかすか〜
  CT検査において、いかに技術力を生かすか
満園 裕樹 北九州市立八幡病院 放射線科
【概要】今回のテーマである『放射線技術の最前線 〜いかに技術力を生かすか〜 』という題名を考えたとき、まずここでいう『技術力』とはなにか?ということを考えました。その結果、そもそも『技術力』には『メーカーの持つ開発技術』と『ユーザーが装置性能を引き出す能力』の二つの因子が存在し、これらが融合されて『技術力』となり、最終的に患者の利益となるよう還元されるべきものでるのだろうと考えました。また、この『技術力』を生かすことによって、何を提供すべきであろうか?とも考えました。職人芸による『高度なテクニックの駆使』や非常に高価な最先端CT装置の基本性能で、『高精細な画像の取得』や『高品質の臨床データ』を取得するという事、これも一つの『技術力』なのかも知れませんが、これだけでは技術力を生かせる人材や施設は限られた一部のみとなってしまいます。はたして本当にこれだけでよいのでしょうか?前記事項の重要性もさることながら、最先端CT装置を簡単には導入できない多くの施設にとっては、診療に必要な情報をきちんと確保するとともに、『身体的侵襲の軽減』『経済的負担の軽減』を達成するというアプローチもプロフェッショナルとしての『技術力を生かす』ということではないかと考えます。このような観点の中、当院で行なわれている『腎血管形成術支援におけるCT検査』を例にあげながら、本シンポジウムの中で、会場の皆様と『いかに技術力を生かすか』という命題を一緒に考える事ができれば幸いです。
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